カフェ番長

カフェ番長「カオポン」の、珈琲と喫茶店日記。 時には鞄を作ったり、ジャズを歌ったり。 手作りの暮らしを楽しんでます。

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短編 「ロボット爺ちゃん」




その1

夏休みが始まる一日前。僕の部屋に小包が届いた。
僕の背丈より少し大きい銀色の箱に、『ロボット カタログ』と言う文字が入っている。
中国語と英語とハングル文字とアラビア文字と日本語で赤く注意書きが書いてある。
『注意!!開封してからの返品は如何なる事情があってもお断り致します。
あなたの暮らしにロボットの恩恵を。』


開封してからは返せないなんて文句、カタログには載ってなかったぞ。
僕はちょっとインチキな手口に引っかかっているんじゃないかと心配になったけれど、
その小包を早く開けてみたかった。
でも、ここはぐっと我慢。
夏休みが始まったら見てみる事にしようと決めたんだ。
僕はグチャグチャに散らかった部屋の真ん中に小包を置いた。
さあ、明日からは夏休み!海にも行きたいし、山にも行きたい。
それに、小包の中のロボットを起動させて僕と友達にさせるんだ。
久しぶりに僕は、すぐに眠った。いつもより、4分と23秒早く。


そして僕はすぐに起きた!
いや、起こされたと言う方が正しい。
いや、もっと正確に言えば「叩き起こされた」と言う。
僕は今まで「叩かれる」と言う経験は無かったから、一瞬何をされたのか分らなかった。
それでも、程よく肥えた僕の臀部にじーんと痛みが伝わった瞬間、
僕は「わあああああああっ!!」と叫びながら起きた。
そして部屋の中を見た瞬間、もう一度僕は、「わあああああああっ!」と叫んだ。
まだ開封されていなかった箱が開いていて、その中のロボットが勝手に起動していたんだ!




「けしからん。書生はいつまで寝ているんじゃ!」
ロボットはそう言うと「カーッ!」と口を大きく開いて喉の奥から何かを吐き出そうとしていた。
そして「ペッ!」と、ロボットのくせして何かを吐き出した。
この動作は多分、「痰」と言う喉粘膜にたまった不純物を吐き出す動作だな、と僕は思った。
痰は出なかったけれど、代わりに濁った油の塊みたいのが出た。ロボットの痰なのかもしれない。
「は、は、は、はーや、早起きは三文の得。
しょ、しょ、書生はこれからワシと同じくらいに早く起床する事を心がけるのじゃ」
しわがれた声でそう言うと、ロボットは散らかった僕の部屋を片づけはじめた。
生まれてから11年間、一度も掃除をした事が無かった僕の部屋を!
「うーむ、しょ、書生くん。君はまだ子供のくせして随分とませているな。
ああー、この“宇宙美女大百科決定版”、これは没収させて頂く。
あと、なんだね、君の、その、ぶよぶよにたるんだ体は。
健康維持装置で体調管理をするのも結構だが、すべて機械にまかせてはいけない。
男子たるもの、もっと強靭な体を作るにはもっと鍛えなくてはならないの。
ああー、それからそれから…」

『開封してからの返品は如何なる事情があってもお断り致します。』

開封して、じゃあなくて勝手に開封されちゃっても返品って効かないんだろうな。
僕は箱に書かれた赤い字を睨みながらため息をついた。
そして、むくむくと怒りがこみ上げてくるのを感じた。
だいたい僕は、こんな「お爺チャンロボット」なんか頼んだ覚えはないぞ!!
僕が頼んだのは「お姉チャンロボット」だったはずだ。
僕の言う事を何でも聞いてくれる、美人なお姉チャンロボットが来るはずだったのに。
同じ「チャン」でも爺と姉とじゃ大違いだ。
ロボットのくせして、説教を言うし何だか随分偉そうだ。
ロボットのくせして、お茶まで飲むんだ。僕はお茶なんか飲んだ事が無いのに…。


neji.gif





僕は生まれてからずっと、この部屋で一人で、一人で…生きてきた。
父さんの顔も母さんの顔も知らない。眼をあけて最初に見たものは何だったろう。
僕は今まで、学校に行く事も、図書館も、運動場も、海で海水浴も、山のキャンプも、
全てこの部屋で楽しんできた。
僕の机の上に置いてあるヘルメットを被ると部屋の中でいろんな所に行って、いろんな体験ができるんだ。
まあ、できると言ってもみんな疑似体験なんだけどね。
学校の中にいる「友達」と言う者も、海の中にいる「魚」と言う生き物も、みんな、みんな作り物なんだ。
僕たちが生きている世界は、みんなそうやって大きくなっていく。
僕の他にも沢山の子供や大人がいるみたいだけど、僕はお目にかかった事が無い。
物心がついて初めて勉強をした時に、この世界のルールみたいな物を教育ロボットから教えてもらったんだ。
それはね・・・「呼ばれるまでは『外』に一歩も出てはいけない事」。
誰に呼ばれるのかは分からないけれど、
誰かに呼ばれるまでは僕たちはずっと、ずーっとこの部屋の中で暮らしていくんだ。
まあ、今まで何も困った事は無かったし。寂しいとは思わなかったんだ。
でも教育ロボットから、よく勉強を頑張った御褒美に何かプレゼントをしようって言ってくれた時、
僕はある事を思いついた。
「ナニガホシイノカ、イッテクダサイ」と電子眼をきらきら輝かせて僕を見るロボットに、僕はこう言った。
「じゃあ僕は夏休みが欲しい。勉強ロボットと一日中顔をつき合わせていなくてもいい、
本物の休みが欲しいんだ。それも、今までにはないくらいながーい夏休みをね!」

生まれたときから僕の傍についていた勉強ロボットは、僕の注文を理解するのに少しだけ時間がかかった。
しかし、僕の言いたいことが理解できると、勉強ロボットは起動を停止させ、ただの金属の塊になった。
そして僕は、前々から興味を持っていたあるロボットを注文したんだ。
テレビから「ロボットカタログチャンネル」を開いて「せくしーなお姉ちゃんロボットを一台!」って注文したんだ。
夏休みの間に、ちょっと「女」についても知りたかったからさ。

でも、今僕の部屋にいるのは「お爺チャンロボット」だ。
こんなのどのカタログにも載っていなかったのに。どういう事なんだろう…?
でもどんな理由であれ、もうこのロボットは僕の物である。
壊れるまでは、僕の物。
頬杖をついてふくれっつらをする僕を見ながら、ロボット爺チャンはゴソゴソと片づけていた。
捨てても構わないゴミでも「もったいない、もったいない…」と呟きながら…。
掃除をして片づけてみると、改めて僕の部屋はとてつもなく狭いのだと分かった。
僕は生まれてからずっと、このベットの上で生活をしていたのだから。
食事も、排泄も、お風呂も、睡眠も、全部全部、このベットの上で。
突然、僕の部屋に放り込まれたロボット爺チャンは、僕の周りを忙しそうに動き回っていた…。




その2



「あーっ、あーっ。しょ、しょ、しょ、書生くん!」
ロボット爺チャンは吃る。ロボットのくせして入れ歯まで入れている。
僕の名前は「1025698・も?8番」って言う名前なのに、
ロボット爺チャンは「書生くん」と僕をそう呼ぶんだ。
何度も「1025698・も?8番」だ、って言ったんだけど、呼び方を改める気は全く無い様だ。
僕もまあいいかと思って、好きな様に呼ばせた。
まあ、「書生くん」と呼ばれてもまんざら悪い気もしなかったからね。
次の月までは、「勉強ロボット」は作動しないから、僕はロボット爺チャンと
一日の大半を一緒に過ごす様になった。

ちなみに去年の夏休みは、ずっと「ハワイ」と言う大昔にあったリゾート地に行って過ごした。
と、言っても全ては「旅行プログラム」の中での疑似体験なんだけどね。
肌をおもいっきり露出したお姉チャンや蒼い海が見れて楽しかったけれど、
それは全て僕のベットの上で経験した事。
ロボット爺チャンは僕に疑似体験を楽しむ為のヘルメットをかぶる事を禁止した。
ロボットに禁止されるなんてどうかしてると思いながらも
爺チャンが立てた夏休みの暮らし方の計画に従ってみる事にした。
たまには疑似体験をしなくてもいいかもしれないと思ってさ!


爺チャンと過ごす朝は……と言っても、何が朝で何が夜なのかも
あんまり分かんないものなんだが、爺チャンの朝はとてつもなく早い。
時計で言うと午前5時には「起床ー!!」と言う声と共に、
僕が寝ていようと構わずに僕の体をグイっと起こすんだ。

今まで殆ど体を動かしていなかったから、僕の体はとてつもなく肥っている。
起き上がるのもやっとの事なんだ。ふうふう言いながら起き上がると、
一杯の「水」と言う液体を僕に飲めと薦める。
僕は今まで「水」と言う液体を飲んだ事は無い。
だいたい栄養剤が入ったジェルが鼻に通したチューブを伝って体の中に入っていくんだ。
だから、「飲む」と言う行為も爺チャンに初めて教えてもらった。
「いいかあ?書生くん。こうやって噛む様に飲むのじゃ」
そう言って、ロボット爺チャンはチタン製の入れ歯をキンキン言わせながら、水を飲んでみせた。

ロボット爺チャンは「遊び」を僕に教えてくれた。
今まで何も知らなかったわけではない。
でも、生身の遊び相手は今までいなかった。
爺チャンは、「外」と」時々連絡を繋げては僕の見た事も無い素材を調達してきてくれた。
紙を使って、「紙飛行機」と言う飛ばせるオモチャを造った。

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指で触れてみると、何か硬い感触がした。時間をかけて折ったり、丸めたりしてみると
紙は柔らかくなるものだという事が分かった。
爺チャンの指先から離れた飛行機は、狭い部屋を旋回しながら飛んだ。
僕は部屋の天井を今まで見た事がなかったのに気付いた。
いや、いつも寝るときに僕の視界に入っていたと思う。
ただ、意識して見なかっただけなんだろう。
天井に小さなカメラがあるのに気がついた。たぶん、外の世界の誰かが見ているのかもしれない。
きっとそうなんだろうと爺チャンに確かめてみたけど、爺チャンは「外の事は、わしは知らん」と言った。
どうなんだろう、知っていてもそう言う様に仕向けられているのかもしれないな。
僕はそれ以上何も聞かず、爺チャンと遊ぶ事に集中した。

シャボン玉作りに、けん球、かくれんぼに鬼ごっこ…ベットの上では狭すぎると思った。
僕は、爺チャンの遊びに食らいつくかの様に体を動かした。
しばらくすると、そんなに呼吸が乱れなくなった。少し体も細くなった。
鼻に通したチューブも抜いて、薦められた食物を食べる様にした。
うまく咀嚼が出来なくて、窒息しそうになった事もあったけれど、
だんだん食べる事の楽しさを感じる様になった。
「カーッ、カーッ、カーッ、カーッ、カッ!!」と、爺チャンは楽しい事があると大声で笑った。
僕は爺チャンの笑い声が好きになった。何だか、お腹の底から気持ちよくなるからなんだ。

不満なのは、爺チャンは早く眠ると言う事だ。
基本的にロボットは「眠る」と言う行為はしない。
いつまでも起きているし、自分から機能を停止する事は無いんだ。
でも、このロボット爺チャンは特別みたいだった。
夜の7時になると、プツンと切れたかの様に勝手に止まってしまうんだ。
その機能停止の仕方も凄くてさ。7時きっかりに「就寝形態へんけーい!!」って叫ぶ。
そうすると、爺チャンの体がガッチャン、ガッチャン言いながら銀色の箱に変形していくんだ。
大昔の「ロボットアニメ」って言うやつみたいなんだ。
それで、最後には爺チャンのチタン製の入れ歯が律義に箱の上に置かれてある。
入れ歯もしまう事ができないのかな?爺チャン…。

僕は爺チャンが眠ってしまうと退屈で仕方がなかった。
爺チャンを製造した「ロボットカタログ」と言う会社に
「機能を自分勝手に停止させるロボットは困る!」って文句を言った事があるんだけど、おかしなものなんだ。
ロボット爺チャンは勝手に起動したり、起動を停止する様にはプログラムされていないって言うんだ。

「1025698・も?8番、普通ではありえない事です。アナタは不正な取り扱いをしたのではないですか?」

テレビの向こうの、『ロボット相談室』の受け付けロボットは、機械的な声で僕を脅した。
とんでもない!何が不正なんだ?
僕のロボット爺チャンが勝手にそう動いているんだ。僕は、テレビを消すとため息をついた。
僕の元に送り付けられたロボットはちょっと変わっている。
ロボットなんだけど、人間みたいで。人間の僕よりも、人間ぽい。
ロボット爺チャンは、時々僕が言った言葉を忘れたり同じ事を何回も言ったりと、
ちょっと変な行動を取る事もあったけれど、
そんな変なロボットの事を僕はいつか好きになっていた。
夜7時になって、爺チャンが「ワシは、もう眠る。就寝形態へんけーい!!」と機能停止すると、
僕も眠る様にした。
もう一人で起きているのが寂しいんだ。
僕は、夢の中でもロボット爺チャンと遊ぶ様になった。


その3


ロボット爺チャンの具合がおかしくなったのは、「勝手に起動」してから39日めの事だった。
いつもの様に、朝5時に「起床ー!!」って起こしてくれるはずなのに、
その日はずっと爺チャンは動かなかった。
僕は朝5時に目覚めるのが習慣になっていたから、勝手に起き上がった。
でも、ベットの横で一杯の水を差し出す爺チャンの姿はなく、銀色の金属の塊が静かに横たわっていた。
機能停止をすると、爺チャンは人間の姿から、銀色の箱みたいな姿に変化する。
僕は、ベットから起き上がると箱の状態の爺チャンに触れた。
物言わぬ爺チャンは、ただの箱だった。
「なあ、爺チャン…」
僕は声をかけた。
「どうしたんだよ、爺チャン…」
爺チャンは、尚も沈黙を通していた。

僕は、嫌な予感がした。まさか完全に機能が停止しちゃったんじゃないのかな…って。
「なあ、爺チャン!爺チャンってば!」
僕はこぶしで爺チャンを叩いた。箱のままの爺チャンはカチカチに硬い。
指相撲を教えてくれた、精巧な柔らかい手も、少し曲がった背中も、
すごく良く出来た口髭も、何も…何も…無い。

僕は混乱した。直にテレビの『ロボット相談室』に爺チャンの異常を訴えた。
「あのさあ!爺チャンが!爺チャンが死んじゃったのかもしれないんだ。なあ、治してくれよ。頼むよ!」
それに対して、受け付けロボットはこの前と同じ機械的な声で淡々と答えた。
「1025698・も?8番、ロボットに『死』と言う言葉はありません。
これから、24時間以内に再起動したとしてもこのロボットは
異常ロボットとして機能をこちらの方で停止させます。
直ちに回収し、新しいロボットを発送します。」
「回収するって?!新しいロボットなんて、いらないよ。
今の爺チャンロボットじゃなくちゃ、嫌なんだ!!」
僕は、画面を殴りかねない勢いで怒鳴った。
僕のとても、とても人間的な行動に対し、受け付けロボットは暫く静止していた。
そして、僕の持って行き場の無い怒りが少し治まるのを判断すると、また語りかけていた。

「アナタの元に届けられたロボットは我々の記憶にない程の昔にカタログ落ちした欠陥ロボットです。
欠陥ロボットは直ちに回収され、良質なロボットを作る為の原料としてリサイクルされます。
次に届けられる最新型ロボットに、どうぞご期待下さい」
そう言うと、電子メールが1通、僕の部屋に届いた。

この時点で決定してしまった。ロボット爺チャンは、明日の朝に回収される。
爺チャンは、どうなってしまうんだろう…。





爺チャンが目覚めたのは、夜の11時過ぎだった。
いつもならとっくに爺チャンが一日の活動を終えて起動を勝手に停止させている時間だった。
「いつまで、寝てたんだよー!大変な事になっちゃったんだぞー!!」
僕は爺チャンの肩を揺さぶった。
こんな時間にでも起きれるんだったら、『ロボット相談室』なんかに連絡するんじゃなかった!
僕は後悔の気持ちでいっぱいだった。
でも、僕の気持ちとうらはらに、ロボット爺チャンの表情は晴れ晴れとしていた。

「そうか…わしは回収されるのか…」
爺チャンはポツリと呟いた。
「そうなんだよ、何されるのか分かんないけど、爺チャンは俺の爺チャンじゃ無くなっちゃうんだ」


回収されたロボットの辿る道は本当の「死」だと言う事を僕は爺チャンから聞かされた。
「わしは、もう何十年も…何百年も前に稼動したロボットだった。
あの頃の地球は、今よりもっと酷かった。
人間よりもロボットの数を増やそうと、政治家達は必死だった。
人間が増えすぎてな。どこも住めない状態だった。どこにいっても年寄りばかりだ」

僕は教育ロボットから、その昔、地球では老人規制法と言う名の元で
世界中の老人が「削除」された事を学習したのを思い出した。
地球の全人口の3分の2を老人で埋め尽くしていた頃の話。子供が殆ど生まれてこなかった時代の話。
僕には理解できない事だった。

「老人がいなくなった地球は一件秩序を取り戻したかの様に見えた。
しかし、そうでは無い。先人の知恵や歴史がなくては新しい文明は生まれない。
子供だけになってしまった地球に、大昔の老人の知恵と心を組み込まれたロボットを
子供の教育目的として創り出されたんだ。それがわしらだ」
「ねえ、爺チャン以外の爺チャンロボットも、こんな感じなの?」
そう聞くと、爺チャンは首を振った。
「さあな、昔のことじゃ。それにもうワシ一台しか残っちゃおらんじゃろう」
僕も分かっていた。こんなロボットは他には何処を探しても見つからないんだ。
「寂しいよ、爺チャン」
僕は爺チャンに抱きついた。爺チャンはロボットとは思えない程、暖かかった。
「書生くん、わしも寂しいよ…」
僕は最後の夜を、爺チャンと一緒に眠る事に決めた。



爺チャンが僕のベットの上で眠るのは初めてだった。
「わしが眠らずとも、『向こう』が勝手に切るだろうから、今日は書生くんの眠りをじっと見守っておろう」
爺チャンはそう言うと、僕と向き合って体を横たえた。
いつもの機能停止と違って、本当に人間が休む様な姿だった。
僕は辛いけれど、泣かないと心に決めた。
爺チャンを気持ち良く眠らせてやりたかったんだ。

僕は爺チャンの腕枕の中で、ジッと高い高い天井を見つめた。
僕の知らない外の世界は、天井に開いた小さな「穴」から僕を見下ろしている。
ひょっとしたら、ずっと昔の地球じゃないけど、今度は子供を削除するかもしれない。どうなんだろう?
僕を外の世界に呼び出す者は、人間かもしれないし、
ひょっとしたらロボットなのかもしれない。
それでもいい、いつか「外」から呼び出されて、
このちっぽけな部屋から出る日が来たら、僕はこう言うんだ。
「世界中の子供達に本当の家族と一緒に暮らせる様にして下さい!!」って。
ロボットと言えども、爺チャンは僕にとって初めて「家族」の様な物だった。
僕の大事なロボットはもうすぐ「死」を迎える。
僕は初めて大きな孤独を味わう事になるんだ。
気がつくと、爺チャンは静かに眠っていた。
箱ではなく、人間の爺チャンの姿で眠っていた。

僕は、爺チャンの体から離れると、壁に映し出された日付を見つめた。
今日で、僕の夏休みが終わった。
僕と、爺チャンの楽しい夏休みが終わった。
爺チャンが来てからかけなかった疑似体験用のヘルメットを、僕は爺チャンにかぶせてあげた。
僕が大好きなハワイの海が見えるプログラムをセットした。
真っ赤なハイビスカスの向こうで、僕と爺チャンがサーフィンを楽しんでいる夢を見て欲しいから。





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僕の初めての友達はロボット爺チャン。
静かに、静かに眠っている…。












fin








ちょっと前に書いた小話。少し改稿。原稿用紙20枚ぐらいかな。







拍手コメントありがとうございますー。


お返事でございます。

ダルマーK殿。先日はどうもありがとうございました。
温めている話のプロット、凄く良いと思うよ。是非、形にしてね。

また、80年代語りをしましょう。

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ジャズ小噺 「明るい表通りで」





きこえる、きこえる。ほら、あの人の足音が。

少し硬めの靴、あれはたぶん皮靴だ。それもとても仕立ての良い。

随分久しぶりに聴いたような気がするけど、何だか今までと違って聞こえるのは何故かな。



-----おい、オマエ。そこで止まるなよ。列が乱れるぞ。

すみません、隊長殿。だってあの人の足音ですよ。

-----ちっ、わかってらい。俺だって知ってるよ。

でしょう、隊長殿。これはひょっとして、ひょっとすると今夜あたり…。

------違うな。おめえは全然わかってねえ。

わかってないって、どういうことですか?

------あのな。よく聴け。もう一つ違う音が混ざっている。

違う音?

----そうよ。その触覚でもう一度感じるんだ。あのやわらかな足音。あれは…。

ひょっとして、女の子と言う生き物ですか?

-----かもな。俺としては何の興味も無いけどよ。まっ、今までのアイツらとは違うって事だ。

へえ…そうなんだ。



半日かけて下った道。まだ僕の仕事は終わっていない。

僕の役目は、女王様が産みなさったお子様のためにせっせと食事を運ぶこと。

昨日の昼に仲間総出で戦をして、やっと勝ち得た物を納めているのだ。

時には地上で蜂やアブ達を相手に戦って、数え切れないくらいの犠牲を出して、それでも僕達は食事を運ぶ。



僕が「あの人」の足音にはじめて気づいたのは、随分前のこと。まだ僕は働き出したばかりのひよっこで、

毎日どれだけ頑張っても、一つも餌を運び出せない全くの素人だった。

みんなに沢山迷惑ばかりかけて、情けなくて、毎日泣いてばかりだった。

生きていく事に意味があるのだろうか、なんて考えていたのもこの頃。

そう言えば隊長は、「そんなことを考える事すら無駄だ」って言って笑っていた。

今では優しい隊長も、あの頃は随分ぐれていた。

なんでも、突然遠い国から船便に混じって渡ってきたらしくて、隊長の姿は僕達のとは随分体つきも違って、

喋り方も変な訛りがあった。

ただ物凄く体がでかくて、テントウムシやカメムシ相手に一人で戦える力もあったから、

すぐに僕が所属する部隊のリーダーになった。

でも、気に入らない事があるとすぐに僕を殴っていたし、仲間ともよく喧嘩をしてた。

そんな僕と隊長が、一緒に地下へ戻ろうとしていた時だった。

日が沈んだばかりの地上から、ずんと腹に響く音が聞こえてきたのだ。



ずん。

どぅーん。

どぅー。

どぅっ、どぅっ、どぅっ。



ずん。

どぅーん。

どぅー。

どぅっ、どぅっ、どぅっ。



少し変わった間を取りながら、ぶーんと重い音が地下に響く。

それは地上で耳にした、ありとあらゆる生き物の音とは随分違う。

この重たいリズムの音が繰り返されること8回。僕と隊長は互いの触覚をリズムに合わせて揺らしてみる。

するとこれが結構気持ちが良い。

この後、このリズムは保たれたまま、後から後から色んな音が混ざっては消え、混ざっては消えた。

犬の遠吠えにも良く似た音、鳥のさえずりより、もっと魅力的な声で鳴いているように聞こえる音。

何て、気持ち良いんだ。

それまでもやもやしていた気持ちがふっと抜けていく。

気がつくと、僕と隊長はその音が鳴り止むまでずっと体を揺さぶっていた。

そして僕のまわりにいた仲間達も、気持ち良さそうに揺れていた。

後から教えてもらったのは、この音が「ジャズ」と呼ばれているってこと。

隊長が昔いた場所では、しょっちゅうこんな音があちこちで流れていたらしい。

人間が時々、音を作って楽しむことがあって、それを「音楽」と言うことも教えてもらった。

音楽は良い。それもこの「ジャズ」と言う音楽は。

いつしか僕達は、このジャズの音を流してくれる人たちのことを「あの人」と呼んで慕う様になった。


……「あの人」たちの足音は次第に小さくなり、やがて音楽が聞こえてきた。

隊長曰く、「レコード盤」という黒いものから、その音が生まれる。

地下にもぐる前に見た、明るい初夏の空。いつも耳にするのとは違い、底抜けに明るくて優しい音。

今日はなんだか、優しい音ですね。「女の子」がいると、あの人たちはいつになく音がやわらかくなります。

そう言うと、隊長は「ああ」と言って頷いた。

------たぶんな、こどもがそこにいるんだよ。だから、こんな音が聞こえてくる。

こども…ですか。僕は驚いて隊長の顔を覗く。隊長は片目だけをあけて、にやりと笑う。

------どんなつれえ(辛い)事があっても明るく逞しく生きて欲しいんだよ。どんなことがあってもさ。

顔をあげて明るい表通りを歩いて欲しいって願うんだ。親になったら、みんなそう思うだろう?



乾いたアスファルトの道。埃が舞う朽ち果てたビル。

仕事もなけりゃ、金も無い。生まれる時に親からもらった血と肌の色。

世間がどう辛くあたろうと、それが私の生きる道。

だから明るく生きてやろうよ。くよくよしないで、笑ってやろうよ。

昔いた土地で聴いたその曲は、酒場や裏通りだけでなく、母親が赤ん坊をあやす時にもよく口ずさんでいた。

赤ちゃんですか、いいですねえ。そうだ、女王様のお子様にもこの曲を聴かせてあげたら。

-----バカを言え。地上に連れ出すことができぬことぐらいオマエもわかっているだろう。

そうですけど…。隊長が歌ってさしあげたらどうですか?

-----無理だ。どうしてもやりたいなら、オマエが歌え。



そう言うと、隊長は吸っていた桜の葉巻を僕に預けた。そして大きな背中を揺らしながら地下へ潜っていく。

僕はアリ。

きっとこれからも、こんなふうに、死ぬまでずっと女王様のために食事を調達して運び続けるだろう。

それがどういうことなのか、何故なのかとは、もう自分に問う事は無い。だって、僕はアリなのだから。

暗闇の道をただひたすら、進んでいく。この道が僕にとっては、明るい表通りだと思う。

----じゃあいつか、女王様にお目通りの許可を頂けるよう、手配をお願いしますよーー!



ずっと先を行く隊長の背中に向かって、僕は大きな声で叫んだ。

fin



拍手コメントありがとうございました!
フルートさん、また今度飲みましょうね?。


konoriさん、どうもありがとうございます。教えていただいたブログ
拝見させてもらってますよ?

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掌編小噺 「工場と異人の夏」最終回



ルシアーノが明日ブラジルに帰るという日、俺達は最後のサッカーをやった。

季節は秋になったものの、まだまだ陽射しは強かった。
でもときおり吹いてくる秋風の涼しさに、俺たちは季節の移ろいを感じていた。
セイタカアワダチソウの黄色い花が揺れる空き地の真上を、アキアカネの群れが飛んでいる。
初めて二人でリフティングを楽しんだ春の朝を思い出しながら、まずはボールリフティング。
体中のありとあらゆる所を使ってボールを受け止める。
足の裏を使って空中でくるりと一回転ボールを回す「くるり」。
頭の上でボールをついて次第に細かくつきながら、最後はぴたりと頭の上で止める「オットセイ」。
ぽーんと高くボールをあげて、落下するボールを背中で受ける「バック・シャン」。
ルシアーノやその仲間達と、遊びの中で生み出していった互いの技を、一つ一つ確かめるように披露する。
トントントンとボールの弾む音が、乾いた空き地に響く。

吹き抜ける風の音が、俺たちの別れの序曲を奏でていた。
それは少しも感傷的ではなく、むしろ猛々しい気持ちにさせられる。
ボールを触れ。しなやかに、軽やかに。体の一部になるようにやわらかくボールを触れ。
やがて宙に浮いていたボールが地面につくと、それがキックオフの合図だった。
俺達は何も言わずに、どちらからともなくボールを奪いあう。1対1のミニゲーム。
1つのボールを争って、俺たちは互いの体を入れ、ぶつかりあう。ルシアーノの肩が俺の胸にあたる。
左腕でルシアーノの体を押すと、まず始めに俺のほうがボールを取った。
さあ、先攻だ。ルシアーノは瞬間に俺の動きを察知して、球を取りに体をいれてくる。
そうはなるものと、彼に教えてもらったフェイントを駆使して、俺はあいつを必死に抜こうとする。
ボールを素早く引いて、またいで、浮かして!
しかし、敵の壁は厚くルシアーノの鉄壁な守りを崩す事が出来なかい。
そのうち、とうとうルシアーノが俺からボールを奪った。
日焼けした素足が、神業の様な速さでボールを撫でていく。

早い、とてつもなく早い。
踊る様な独特のリズムで、俺をあっという間に抜いていくと、ハーフラインを越えたあたりからシュート体勢に入る。
打たせてなるものかと必死に追いついて、横から思い切り当たりをつけにいったものの、それも呆気なく交わされた。
そして瞬時にゴールコースを変えると、あいつは全く躊躇する事無くシュートした。

入る!
シュートした瞬間、そう強く予感した。
シュートされたボールはぐいーんと曲がり、工場の外壁に当たった。
息を止めた工場の外壁が、ルシアーノのシュートでバーンと撃たれたかの様に響く。
鳥肌が立つような美しいシュートだった。凄い。やっぱりルシアーノは凄い。
点を入れられたのは俺の方なのに、ルシアーノのあまりに見事な攻め方に、俺はしばし呆けたように立っていた。

「ミヤ、最後に君のシュート、見せて」
ルシアーノが壁から跳ね返ってきたボールを俺に渡した。今度は俺の番だ。
俺は黙って肯くと、ドリブルを始めた。
左足がボールの側面を捉える。この想い出がいつまでも忘れる事のない様に想いをこめて、俺はシュートを放った。
ルシアーノとの最後の試合はこれで終わった…。


「ミヤ、これから君はいろんな友達を作るといいよ。
君はこんな、素性の知れない僕とも仲良くできたしね。
学校でも、がんばって。君なら、できるよ」
ゲームの後ルシアーノは最後に俺にそう言うと、ミサンガを俺の足首に巻き付けてくれた。
「ミヤ、辛いときはこのミサンガ思い出して。僕がいつも君の事を想っている事を忘れないで」
俺と同じ年なのに、ぐっと大人びた表情をしている。
ルシアーノの言葉を大切にしていきたい。俺は強くそう思った。





そして2学期が始まった。
ルシアーノはブラジルに帰り、ルシアーノに託された想いを叶えてみようと思って、学校のサッカー部に入部した。
それは今までの自分なら、絶対にありえない事だった。
だけど、やってみれば何とかなるものだ。
朝も夕方も練習に参加して、最近は試合にも出してもらっている。この前の試合では、はじめて得点を決めたし、監督に褒めてもらった。
相変わらず一人でボールを触ってるのは変わりないけど、あまり気にはしていない。
教室の片隅やグランドで一人でボールつきをしていると、どこからともなく誰かがやってきて、俺の隣で黙ってボールをつきはじめてる。まるで、はじめてルシアーノと会った時みたいにだ。
別に無理して喋ろうとしなくても、気持ちは相手に伝わる。ルシアーノが教えてくれた事を思い出しながら、俺は今もボールを触っている。

ルシアーノ。お前、ボール蹴ってるか。
俺は今も乾いた空き地でボールを蹴っている。だから、お前もがんばれよ。



吹きぬける風は透明で、空は蒼く清んでいた。











FIN





(後書き)…これでお話はおしまいです。原稿用紙に換算すると約70枚くらいの量です。後半は、もう一度書き直しました。

拙い話を読んで下さって、本当にどうも有難う御座いました。







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掌編小噺 「工場と異人の夏」その7

夏休みが終わる前に、俺とルシアーノとの別れが突然やってきた。
店の扉に貼り付けた喪中と書いた紙をはがして、また新しい気持ちでサッカーを始めようと思っていた時だった。
いつもの様に夜明けと共に自転車に乗り、空き地へ出かけた。
空き地に着いた瞬間、暫くここに来ていない間に何かが変わったのを感じた。

事実、工場の煙突から煙が止まっていた。
重苦しい機械の音も、業務連絡の音も聞こえなかった。
工場は、沈黙していた。それは酷く耐え難い沈黙だった。
それでも、7時になればまたいつの様にバスが発車するかもしれない。
そして、発車した後にルシアーノのボールをつく音が聞こえてくるかもしれない。
そう思いたかった。そうであって欲しいと思った。
でも、7時を過ぎても工場は沈黙を守り、聞き慣れたボールの音も聞こえなかった。

俺は力なくボールをついた。
いつもなら、よほどの事でも聞かない限り地面に落とした事の無いボールは、
何度も何度も地面を虚しく転がった。
一日中煙の消える事がなかった工場が、煙を消した。
工場も、ルシアーノも消えたと思った……。
「くっ…」
俺は泣いた。体の底から悲しみが思いっきり突き上げてきた。
「ばっかやろー!!」
泣きながら、思いっきり相手のいないからっぽな空に向かってシュートを打った。
俺の放ったシュートは美しい弧を描いた。ルシアーノが打った様な美しいシュートだった。
空の色は憂いをおびた秋の色に変っていた。
俺は地面に伏して泣いた。泣いた……。


どれぐらい時が過ぎたのだろう。
「ミヤ」
背後から、懐かしい声が聞こえた。ルシアーノの声だ。俺は少しだけホッとした。
「ボールをだいじにつかわないと、ダメだね」
しかし、いつもとは何か違う雰囲気なのも感じる。俺は涙をぬぐうとルシアーノを睨みつけた。
「ミヤ、日本男児は泣かない…そう僕のおじいさんから聞いたことあるよ。
なのにどうしてミヤ、君はそんなに泣くの。」
会って半年しか経っていないのに、ルシアーノの言葉は驚くほど日本語が上達していた。
「お前が、い、いなくなるからと…思ってさぁ。」
俺は地面にあぐらをかくと、少し恥かしくなって笑った。でも、出てくる言葉はどうしても嗚咽交じりになってしまう。
駄目だ。何で、こんなに泣けてくるんだ。顔を隠すように涙を拭くと「泣かないで」と肩を叩かれた。

「ミヤ。ミヤは日本の中で一番の友達だ」
そう言うと、ルシアーノは煙の消えた工場を指した。
「日本が不景気なのは知っていたよ。この小さな工場も、今日でとうとうつぶれてしまった」
意外な程、ルシアーノは淡々としていた。
「潰れたなんて、そんな。おまえ、これからどうするんだよ」
これからどうする。
そう言った瞬間、俺はハッと顔をあげた。ルシアーノは俺の顔を見てゆっくりと肯いた。
「君が思っている事と同じ」
「じゃあ…」
「そう、僕はブラジルに帰るよ」
きっぱりとそう言うと、ルシアーノは微笑んだ。
「向こうで僕の家族を助けないといけない。貯金も結構できたし、出来たら学校に行きたいと思うし、サッカーもやりたい」
最後の「サッカーをやりたい」という言葉は、一際力強いものを感じた。
きっとルシアーノは、今までもこうやって出会いと別れを繰り返してきているのだろう。
本当はアイツの方がずっと寂しいのかもしれない。でも、出来るだけその気持ちを出さないようにしているはず。
そう思えたのは、ルシアーノの笑顔がたまらなく優しいからだ。
「おまえ…偉いよ、ほんと」
俺に面と向って褒められたのが恥ずかしいのか、ルシアーノは手をひらひらと振りながら「違うよ」と笑った。
「えらくないよ、ミヤ。ぜんぜん、えらくない。
むこうの子供はこれがあたりまえ。神様が決めたこと、僕はただ、流れるように生きているだけ」
「でも、偉いよ。俺がおまえの立場だったらこんなにも頑張れなかったかもしれない」
俺は立ち上がってルシアーノの肩を叩いた。
「それを言うなら僕も同じだね」
ルシアーノは俺に背を向けると、俺のボールを使ってリフティングを始めた。
「ミヤ…君とこうして出会えていなかったら」
ボールがルシアーノの膝の上で小さくはねる。そしてルシアーノの周りをモンシロチョウがひらひらと飛ぶ。
「僕はもっと早くブラジルに帰っていただろうなあ……」




まだバスの中から俺を見つめていた頃のルシアーノを想い出す。あの頃のあいつは、何処か寂しい目をしていた。
ルシアーノも俺と同じで、人には言えない孤独を感じていた。だからこそ、俺たちはこんなにも気持ちが通じたのだろう。
「君に出会えて…本当に良かったよ」
ルシアーノの最後の声は震えていた。
俺達は、進む方向が変っていく。でも、友情は変わらない。
「ミヤ」
「ああ」

初めてボールを交わした時の様に、俺たちは堅い握手を交わした。



後書き…この部分はもっと丁寧に書きたかったな。今度もう一度書き直してみようと思います。

ちなみに今日は「鮎飯」を作りました。塩焼きした鮎の身をほぐして、
それを炊き込みご飯にまぜる。
好みでみょうがや生姜、三つ葉を散らしてできあがり。
鮎の香がする御飯です。おいしかったw



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掌編小噺 「工場と異人の夏」 その6

押入れを開けた瞬間、かびた匂いがした。この数十年、ずっと閉めっぱなしにしていたのだろう。
久しぶりに光が差し込んだ押入れの中は、鼠の糞や蜘蛛の巣が蔓延っている。
「うわ、すっげえ…」
体が何だか痒くなってくるのを感じながら、俺は上の段にあった古い柳行李を見つけた。
「爺ちゃん、これか?」
爺ちゃんが肯くのを合図に、俺はルシアーノと一緒にそっと柳行李下ろした。
埃をはらいながら、蓋をあけると色の変った新聞紙に何枚も包まれた一つの包みが出てきた。
俺達は発掘作業をするかの様な気持ちで、丁寧にその包みをほどくと、中から何枚か写真が出てきた。
おかっぱに切り揃えられた幼い子供の写真や、端午の節句の時にでもとったのか、
鎧人形の隣でポーズを決める小学生らしき龍爺ちゃんの姿があった。
「これじゃ、ないよなあ」
息が詰まるような暑さの中、俺達は汗をいっぱいに吹きながら、紅茶色に染まった何枚かの写真を見た。
龍爺ちゃんは窓をあけると布団の上でじっと座って俺たちの様子をじっと見守っている。
一枚一枚「これか?」と爺さんに見せるものの、爺さんは首を横に振るだけだ。
やっぱり、夢の中で語りかけてきた戦友の言葉にかなうものは無いんだよ、そう諦めかけていた時だった。
「あっ」
二人とも同時に声をあげ、そして黙って互いを見つめる。
「これ…」
「だな」
手元に残った最後の一枚を見つめて俺たちは肯いた。

「あったか、雅」
俺たちの気持ちが伝わったのか、それまで静かに目を閉じていた爺さんがぼそっと声をかけてきた。
「ああ」
爺さんの前に胡坐をかくと、俺はその一枚の写真を見せた。
「ああ、これだ…」
爺さんのほっとした声に、ルシアーノが「良かった」と手を叩いく。
部屋の隅にあった扇風機に手を伸ばすと、俺は自分の体にピタリと寄せた。

「知らなかったよ」
扇風機の風に自分の声がわらわらと揺れる。
「龍爺さん、サッカーやってたんだ」
「ふっ、まあな」
胸ポケットから煙草を出すと爺さんは煙草を口に咥えた。







「サッカーと言う言葉が昔からあったものではない。フットボールでもない、『蹴球』だ」
龍爺ちゃんは俺の手から写真を取ると懐かしそうにその写真をなでた。
「しゅうきゅう?」
「ああ。わしらは日本にその蹴球が入ってきた当時に始めた、まあいわば、先駆者の様な者じゃ。
まだ戦争の話が聞えてこない頃の話だ。手縫いの麻のボールを追って、わしらはおまえ達の様に毎日球を蹴っていた…」


何も無い、だだっぴろい空き地。其処は今から50年以上も前の俺たちの街の風景だった。
セピア色に染まる空の下で、龍爺ちゃんは俺の死んだ爺さんと、
そして戦争で先に亡くなってしまった「雅幸」と言う人と三人で肩を組んで立っていた。
「ほら、こいつ」
爺さんは写真の真ん中にいる少年を指した。
「こいつが、おまえの「雅」って名の元になった「雅幸」な。
おまえに似て、ちょっと無口で何考えているのか分らん奴だったが、球蹴ってる時だけは良い顔してやがった。
サイパンで死なんかったら、今でも球蹴ってるはずさ。なあ、そうだろ?雅やん…」
最後は写真の友人に話しかける様な口ぶりになりながら、爺さんは昔の事を振り返った。


その日、爺さんの家を後にした俺たちは、いつもの空き地へ向った。
爺さんの話を聞いたからなのかもしれない。何だか、無性にボールを触りたくなったのだ。
俺たちはずっと黙ったままボールリフティングを続けた。
戦争がどうだとか、平和がどうだとか、そういう事を考えるのはちょっと難しい。
でも、こんなふうに心を許せる仲間とボールを触っていられることは凄く幸せなんだ。
だから俺は「雅幸」という人の分も含めて、これからもサッカーを続けていくんだ、きっと。
そんな事を自分に言い聞かせながらボールをついてると、ルシアーノと目が合った。
俺の考えている事がちゃんと分かっている様で、アイツは黙って肯く。俺はそれだけで満ち足りた気持ちになった。

その後、龍爺ちゃんはすぐに仲間たちの所へ旅立った。
亡くなる前に、ちゃんと大切な想い出を振り返る事が出来て良かったと思う。
龍爺ちゃんはこれで本当に、仲間たちと思う存分に球を蹴れるんだ。寂しいけれど、俺はそう思うことで納得した。


そして龍爺ちゃんが亡くなってすぐに、その市営住宅は取り壊されたのだった…。




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