喫茶ロアール
以前から気になっている喫茶店があります。
踏切を越えてすぐ近くにある二階建ての建物は、西日色に焼け、
ひっきりなしに往来する電車の振動で窓の枠が少し下がっている…そんなひどく古ぼけた店です。
店の名前は「ロアール」。何とも風情のある、文学的な響きです。
店は二階にあり、細長いレンガの階段を上がっていくと、
赤い扉の入り口にたどり着きます。
気が向くたびに階段を伝って扉の前まで行くのですが、
そこから先は足を踏み入れた事がありません。
なぜならば、行く度にそこは店が閉まっているからです。
扉にはめこまれた飴色のガラス窓からは、
床に放られた数日分の新聞紙と、枯れかけた観葉植物、
そしてテーブルの上に置かれたままのライターが。
それは覗くたびに、微妙に見える物や位置が変わります。
もう店を閉じて久しいのかもしれない、
それとも、夜になれば、ひっそりと店を開けているのかもしれない。
(階段下の看板には朝から昼1時までって書いてあるけど)
この二階の窓辺から、赤い列車が通過するのを見てみたい。
きっと受け皿の上で、カップはかたかたと小刻みに震えるんだ。
そしてその度に、珈琲は深い香りと共に表情を変えるんだ。
そう思ったら、どうしてもお店の事が気になってしまいます。
道を挟んだ真向かいに、こじゃれたカフェがあるので、
そこで珈琲を飲みながら店の様子を伺うことにしました。
春に来て、夏に来て、秋にも来て、冬にもやっぱり来て。
同じ席から店の様子を眺め続けました。
そうしているうちに、建物の下にはラーメン屋ができ、そして少しも経たないうちに
ラーメン屋はつぶれ、代わりに宝くじ売り場になりました。
だけど、二階の店はそのまま。何も、何も変わりません。
やっぱり、この喫茶店はつぶれてしまったんだな。
と、すると、もうここへ通う意味も無くなるかな。
そう思ったある日、二階の窓を何気なく見ていたら、いつもは閉まっているカーテンが
半分だけ開いている事に気づきました。
これはどういう事なんだろう。店の主人が久しぶりに店を開けて
換気でもしたのだろうか。それともいよいよ店を取り壊すか、どこか他の店舗でも入るのだろうか。
まだまだ、観察する必要がある様です。
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| 今日の喫茶店 | 18:04 | comments:8 | trackbacks:0 | TOP↑