カフェ番長

カフェ番長「カオポン」の、珈琲と喫茶店日記。 時には鞄を作ったり、ジャズを歌ったり。 手作りの暮らしを楽しんでます。

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

掌編小噺「工場と異人の夏」 その3



「アイツが、来た…!」
体中の汗が一気に吹き出してくるのを感じる。紺色の作業服と深めの帽子を被った少年は、俺を見ていた。
まだ花を咲かせていないタンポポを踏みしめながら、少年は俺の何倍も細かいボールリフティングをしていた。
体で音楽を奏でるようにリズムを取って、今まで見た事も無いような絶妙なバランスでボールをつく。
膝下から、一気に頭。そして腿。
大きくボールを空に上げた瞬間にくるりと体を反転させて、そこにボールが落ちてくるのをまるで
知っていたかの様に、また足の甲でつく。
俺もアイツのボールリフティングに対抗するかの様に、一定の距離を保ちながらボールをつき始めた。

名前は?
家は何処なんだ?
何処でそのサッカーを覚えてきたんだ?
何処のチームにいるんだ?

聞きたい事が山程あったけど、俺は夢中でアイツの「音楽」に合わせるかの様にボールをついた。

うねりだ…。音のうねりを感じる。
俺は眼を瞑ると、やわらかな春の光を浴びながら、サンバのリズムを感じた。
これだ!きっとこれなんだ!
春の芽吹きを感じるような躍動感を感じる。アイツのサッカーはサンバなんだ。
何か、すげえ気持ちいいよ。


koujyou001.jpg





俺は瞑っていた眼を開けた。
一瞬、何も見えなかったけれどそこにはアイツのくったくのない笑顔を感じた。
笑っている。俺にすげえいい顔をして笑っている。
少し浅黒い肌、ラテン系の表情豊かな瞳、大きくうねった髪、両耳につけたピアス、素足から覗くカナリア色の「ミサンガ」。

少年が俺の前まで近付いてきた瞬間、俺は自分のボールから離れて体を伸ばした。
アイツからの「会話」が来ると思った。アイツは「ほら、いくぞ」って眼で伝えてきた。
よしっ、俺は肯いた。緊張が溶けて、久しぶりに笑った。
来い!お前のボール、どんなのでも受けてやるよ。
アイツは俺の笑顔を確認すると、細かくついていたボールをポーンとやわらかく宙に浮かばせた。

ふわり。
暖かい春の空に向かってボールは大きく弧を描いた。
黄砂で少し黄ばんだ空から、アイツの放ったボールは時間を止める様にゆっくりと俺をめざして落ちてくる。
トン!
俺の腿の上でボールはやわらかく弾んだ。もう一度俺の上で弾んだボールを俺は甲で受け止めた。
ボールは拾ってきた子猫の様に大人しく俺の足の上で落ち着いた。
すげえ、優しいパスだと思った。
見た感じどこかの国の人間だと思ったけど、言葉を交わさなくてもアイツはいい奴だと思った。
俺はボールを地面に置くと、左足の中側を使ってアイツに負けないくらい優しい気持ちでパスを出した。
びしっと、俺の足がボールの横っ腹をつき、矢の様にボールがアイツを目掛けて飛んでいく。
でもそれは攻撃的じゃない。アイツの足元まで近付いたらスッと優しく着地する。
俺がいつも頭の中に思い描いていた、誰にでも優しいパスを初めて相手に送ってみた。

俺の送り出したパスは、あいつに無事届いた。
体中で喜びを現すと、アイツはもっと体がしびれるような芸術的なパスを送ってきた。
荒れはてた空き地が、ワールドカップのスタジアムの様な感じがした。

「オマエのパス、すげえいいよ!!」
たまらなくなって、俺はとうとう声をかけた。言葉が伝わなくてもいい。俺の感動を伝えるまでだ。
アイツは俺のパスを受けると、すげえ勢いでドリブルした。
そして、俺の前に来ると息を弾ませながら俺に手を差し出した。
何も言わずに俺はアイツの手を握り返した。アイツも俺の手を強く握り返してきた。

これが俺の初めての親友、「ルシアーノ・デアンドロ・糸田」との出会いだった…。








(後書き)…サッカーな映画と言えば、「勝利への脱出」。スタローン主演でしたな。何と言ってもペレ!
ああ、DVDで見たくなってきた。


スポンサーサイト

| オリジナル小説 | 22:34 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

将軍

毎日、こんなにたくさんの文字をUPするのは、お疲れ様です。
トヨタカップのプラティにというと、ユベントス時代かな?
あのオフサイドで幻となってしまった芸術的ゴールを生で見たんだ!
ちなみに私は、「図解ペレのサッカー技術」という本を持っていました。

| 和三郎 | 2007/05/17 08:12 | URL | ≫ EDIT

こんにちは~。どうも毎度有難う御座います。

そうなんです、幻のゴール。プラティニが芝生の上に肘ついて寝ててすねてみせた瞬間、観客が「おおーー」というどよめきのあと、どこからか拍手がわきあがったのを覚えてます。
それまで日本人の草サッカーしか見ていなかった自分にとって、トヨタカップは衝撃的でした。
そして、ペレ本!
ああー、ありましたよね。そういう本。(笑)
自分、「釜本邦茂のサッカー教室」という本、持ってましたよ(笑)

| カオポン | 2007/05/18 00:36 | URL |















非公開コメント

TRACKBACK URL

http://kaoponcafe.blog8.fc2.com/tb.php/229-071127c6

TRACKBACK

PREV | PAGE-SELECT | NEXT