カフェ番長

カフェ番長「カオポン」の、珈琲と喫茶店日記。 時には鞄を作ったり、ジャズを歌ったり。 手作りの暮らしを楽しんでます。

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掌編小噺 「工場と異人の夏」その4


ルシアーノは、日系3世のブラジル人。
ルシアーノの上に3つ年上の双子の兄ちゃんと姉ちゃんがいて、3人で去年の秋から就労ピザを使ってこの街に来たと言う。
糸田と言うのは、ルシアーノのお爺さんの姓からきている。
太平洋戦争が起こる前に沖縄から渡ったお爺さんと、現地で巡り合った女性との間に生まれたのが、ルシアーノの父。
日本語は思ったより喋るのが上手だけど、殆ど書く事が出来ない。
片仮名がなんとか分かるから、俺はノートに日本語をローマ字で書いて、ついでに片仮名も書き添えて日本語を伝えた。
代わりにルシアーノは、俺にポルトガル語を教えてくれた。
でも、ぜんぜん覚えないんだな、俺は。ルシアーノは俺が教えた言葉をどんどん覚えていく。
俺とは頭のデキが違うのかもしれない。
話を聞くと、ルシアーノが住んでいるブラジルは貧富の差がかなりあって、
貧しい家の子供はお金の為に国を出て、出稼ぎに行くのは当たり前の事らしい。
彼は俺より同じ年で、本来なら学校に行くはずなんだけどこうやって週の3日を夜勤にあてている。
この年での夜勤は違法だと知っていても、ルシアーノは年を偽って働いている。
むこうで名門クラブチームのテストも受けてみたいとは言ってたけど、現実は生活費を家に送る事で精一杯なのだ。

だけど、どんなに夜勤明けで疲れていても、俺とサッカーをやっているのが一番楽しいと言って、
ルシアーノは仕事が終わるたびに俺のところへ来るようになった。
俺もルシアーノに会えるのが、すごく待ち遠しかった。








初めてパスを交わした時に感じたとうり、ルシアーノのサッカーは日本人の俺にはもっていないセンスを感じた。
ルシアーノはドリブルを最も得意としている。
等間隔に置いたペットボトルのポイントの間を、物凄く細かいボールタッチで、しかも神業的な速さで抜けていく。
プロの選手の、それもドリブルを得意とする選手の足元を見ると、ものすごく早くドリブルをしているのに
ボールがピタリと吸い付いてみえる、そんな高度の技を持っていた。

「みんな、やるよ。ミヤも、やれば、できるよ」
そう言って、ルシアーノは静かに笑う。
爪先が少し破れたサッカーシューズから、汚れた足が覗いて見えた。
ルシアーノは遠い母国の大地で沢山の仲間と一緒に、たった一つのボールを求めて裸足で走り回っていたんだ。
俺には考えられない状況の中で、純粋にボールを追っていたんだ。
アイツのきれいなドリブルやパスはそこから生まれてきたんだと思った。
ルシアーノみたいなサッカーがしたい。
俺は、ルシアーノの後をついてアイツのドリブルをイメージしながらボールを追った。
楽しかった。

日曜日になると、ルシアーノと同じく出稼ぎにこっちに来たブラジル人の少年が空き地に沢山集まった。
ルシアーノの友達だと言うのもいれば、ウワサを聞いて隣の町から歩いてきた奴もいた。
日系のブラジル人もいれば、生粋のブラジル人もいた。
はじめは5人ぐらいでやっていたのが、だんだん仲間が増えて2チームぐらい作れる程賑わってきた。
夏草でますますボーボーになった空き地を、俺とルシアーノは少しづつ整備を始めた。
頑固に地中深く根をはやした雑草を引き抜き、大きな穴は埋めた。
ルシアーノの兄ちゃんがどこかの工事現場から「虎柵」や「三角コーン」をこっそりともってきた。
虎柵はゴールになって、コーンがコーナーになった。
やがて、ルシアーノと同じ工場で働いている日本人の兄ちゃん達も加わりはじめ、たまに「日本」対「ブラジル」戦をやった事もあった。
ブラジル人だからと言って、皆が上手いわけではなかった。
結構、当たりがきついし反則もする。
PKになると、何か「呪文」でも唱えながら相手のボールにキスをしやがる。「シュート、ハズセ」ってさ。
審判になった奴も目茶苦茶な笛を吹く奴もいて、ミニゲームの最中にもみくちゃの喧嘩になった事も少なくない。

日本語と向こうの言葉が激しく飛び交い、
日頃のたまっていた不満や思いをぶつけ合うかの様に、俺達は乱闘した。
そしてほとぼりが冷めると、何もなかったようにボールをまわした。

数ヶ月前まで、たった一人でボールをついていた空き地は、ストリートサッカーに興じる、異人達のグランドへ変わっていった……。






(後書き)…今回書いた部分、本当はもっともっと色々なエピソードを盛り込みたかったのですが、そうすると掌編の枠を越えてしまうので、あっさりと書きました。いつか違う形で、この部分をしっかりと書いてみたいと思います。

そういえば、「バッテリー」とか「大きく振りかぶって」とか一昔前は「ドカベン」とか「タッチ」とか「野球狂の詩」などなど、(あ、巨人の星を忘れてたw)野球物の話って沢山あるんだけど、
サッカーだと「キャプつば(キャプテン翼)」ぐらいしか思い当たらない。漫画じゃなくて、小説となると…あるのかな?

誰か、サッカーを題材にした小説、書いて下さい。それも、読むと酸っぱい気持ちになるような「せーしゅん物」を。


さて、ここまでが話の前編。次回からは後編へ。ではでは
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COMMENT

ポルトガル語

ポルトガル語はブラジルでは、もうブラジル語として進化を遂げています。
RをHに近い発音をし、LをUに近い発音をします。
RONALD(ロナウド)は、ブラジル語では、「ホナウド」と発音するのが正しいそうです。
さらに釜本さんの「ゴールの軌跡」という本も、もっていました。
日本人は、いいピッチの広いところで、練習しすぎです。
子供のころは、狭いところでサッカーをしたほうが、技術も上がるし、密集からパスコースをを見つけ出すセンスも培われると想うのですが。

| 和三郎 | 2007/05/18 14:49 | URL | ≫ EDIT

和三郎さん、こんにちはです。この二三日忙しくしてましてお返事が遅くなりましてすみません。

自分、随分昔にブラジル人の友達に向こうの言葉を教えてもらったのですが、発音が難しくて、なかなか上手く喋れなかったです。
ロナウドはホナウドなんだ!へえー。

日本人は環境が恵まれすぎですね。草サッカーの試合でも、ピッチのコンディションは良いし、ほんと練習する場所も広すぎ。

ほんと、狭いところで「お団子状態」になりながら個人技を磨いて、そして良いパスを見つけ出すセンスを培う。和三郎さんのおっしゃるとおり!
そういえば、昨日テレビで「ゴール!」という映画を見ました。和三郎さんとこは放送されてたかしらん。
まあまあ、面白かったですよ。

| カオポン | 2007/05/21 19:03 | URL |















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