カフェ番長

カフェ番長「カオポン」の、珈琲と喫茶店日記。 時には鞄を作ったり、ジャズを歌ったり。 手作りの暮らしを楽しんでます。

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掌編小噺 「工場と異人の夏 その5」





『お前さんは何でそうも、たまを蹴っているのかのぅ』

空き地から帰ってくる俺に、
いつもそう話し掛けてきてくれた近所の龍爺ちゃんが
終戦記念日の翌日に息を引き取った。
それも俺の家の店のトイレに入ったまま…そこで亡くなった。
血はつながっていなかったけれど、
死んだ実の爺ちゃんとは「戦友」で、俺を孫のように可愛がってくれたから
俺の家の店は3日間「喪中」にして店を休んだ。

「盆の時期に、龍爺ちゃんは一男爺さんの所に行っちゃったんだねえ」

母さんは少し涙ぐみながら、爺ちゃんがいつも暖めていたカウンターの席にコーヒーを供えた。
親父はいつもと同じく寡黙で、天井から吊られたテレビから高校野球の中継を見つめていた。
俺は龍爺ちゃんが亡くなる二日前にもらった写真を取り出し、その時の事を思い出した…。






ルシアーノが働いている工場が盆休みに入って、その日はルシアーノも俺ん家の店に来てコーヒーを飲んでいた。
むこうの方で、きっと本場の美味いコーヒー豆を挽いたコーヒーを飲んでいたと思うけど、「おとうさん、おいしい。ムイトボーンね」って言っては、うちの親父を喜ばせていた。
ルシアーノと俺の隣に龍爺ちゃんが座っていた。
その日はいつも読むスポーツ新聞にも手を出さず、今思うといつもとはちょっと違う爺ちゃんだった。

「なあ、ミヤよぉ」

節くれだったしわくちゃの手をこすりながら、龍爺ちゃんは眼を細めて俺を見た。

bonbon001.jpg




「昨日な…夢を見たんだ。」

「ああ?宝くじでもあたる夢でも見たの?」

龍爺ちゃんは「一億が当たったらどうしよう」としょっちゅう話をする所があるから、
またいつものが始まったな、ぐらいにしか感じなかった。

「いや、違う」

龍爺ちゃんの声はいつもより力強い声だった。

「サイパンで戦死した、昔の友人が出てきたんだ。ほれ、お前と同じ字の」

「雅幸?」

俺は龍爺ちゃんの戦友の名前の一文字をとって、自分の名前がつけられた事を思い出した。

「そうだ、雅幸だ。
あれと、お前の爺さんとわしは大の親友でのー、
必ず一緒に生きて帰ろうって約束したのに、
あいつだけ…帰ってこなかった」

終戦記念日が近くなると聞かされるこの親友の話が、この時が最後になるとは思わなかった。

「……時々夢の中に雅幸は出てきた。
お前ぐらいの時だ、恋をしたり夢について語り合った頃の想い出が夢の中に出てくる。
しかし、昨日見た夢は…少し違っていた。
雅幸の大切な写真を見つけて欲しいと言ってな…」

「たいせつな…しゃしん?」

それまで大人しく聞いていたルシアーノが口を開いた。
龍爺ちゃんは深く肯いた。

「ああ、確かに写真と聞こえた。あいつと撮った写真は殆ど戦争で燃えてしまった。
残っているものは、ほんの数枚わしの家の押し入れの中の柳行李に入れてしまってあるんだが、
わしには探す事が無理じゃ。このとうり、あんまり眼が見えんでの」

龍爺ちゃんは、戦争でつぶれた左眼を押さえながら弱々しく笑った。
そして、俺とルシアーノは爺ちゃんの大切な写真を探すのを手伝ったのである。





龍爺ちゃんは市営の小さな住宅に住んでいた。
俺の家の喫茶店は、俺が生まれるよりずっと前の昭和40年から開店した。親父はまだ工場で働いていて結婚もしていなかった。
死んだ実の一男爺さんが店のマスターだった。店の名前を「メモリー」と付けたのも戦死した親友の想い出を忘れない為にと、
生き残った二人が名前を付けた。
その時から殆ど変る事のない姿でこの店はがんばっていた。
一度、一男爺さんの寝煙草が原因でボヤを起こして、ちょっと燃えた所があるけれど殆ど当時のままだ。

そして、海岸線をはさんで真向かいの方に、同じくらい古い市営住宅が並んでいる。
老朽化が進み、街の市制活性化と近くに大きな道路を作る計画とかで、もうすぐこの住宅も取り壊される予定になっていた。
早期に転居を決めた人は優先的に市街地にできたマンションに住める事になっていたんだけど、
この龍爺ちゃんはいつまでもそこに居座っていた。
ずっと独身で身寄りもなく、たよると言ったら近所に俺ん家しかなかったからかもしれない。
殆ど掃除をしていない爺ちゃんの家は、あまりにも寂しく、一人身の孤独を感じた。

「ぼくの国は、びんぼうだ。でもさびしい人はいない」

ルシアーノがボソリと呟いた。
俺は黙って、押し入れを開けた。











後書き…少し間があきました。もうすぐ6月。ぼちぼちビワやさくらんぼが食べたくなってきました。
今日は、何か果物を買って帰ろう。



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| オリジナル小説 | 08:35 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

コーヒー

南東四国はびわの産地なのです。
もう食べました。
サクランボの木が3本あるのですが、、毎年ヒヨドリがほとんど食べてしまいます。
親父は外国航路の機関長で、よくサントス港に入ったそうですが、コーヒーは不味いらしいです。
ボカのあるラプラタ河口にもよく入港していたらしい。

| 和三郎 | 2007/05/31 10:10 | URL | ≫ EDIT

和三郎さん、こんにちは~。
そうなんだ、びわの産地なんですね!名古屋にもびわが入荷してきましたが、目茶目茶高い!
子供の頃、近所のビワの木によじ登って、ビワの実をとろうとしたら、ムカデにさされて木から落ちたことがあります。
びわというとムカデを思い出す。でも、ビワは好きです。

和三郎さんのお父様は、外国船の機関長でいらしたんですか。おおーーー。
ブラジルだから珈琲が美味いというわけででも無いのねw
ちなみに、うちの母方の親戚は沖縄の人ばかりで、そのうちの何人かがブラジルへ移住してますよ。

そしてボカと言うとボカ・ジュニアーズ。

そうそう、キリンカップ見ました?

| カオポン | 2007/06/01 21:24 | URL |















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