カフェ番長

カフェ番長「カオポン」の、珈琲と喫茶店日記。 時には鞄を作ったり、ジャズを歌ったり。 手作りの暮らしを楽しんでます。

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掌編小噺 「工場と異人の夏」その7

夏休みが終わる前に、俺とルシアーノとの別れが突然やってきた。
店の扉に貼り付けた喪中と書いた紙をはがして、また新しい気持ちでサッカーを始めようと思っていた時だった。
いつもの様に夜明けと共に自転車に乗り、空き地へ出かけた。
空き地に着いた瞬間、暫くここに来ていない間に何かが変わったのを感じた。

事実、工場の煙突から煙が止まっていた。
重苦しい機械の音も、業務連絡の音も聞こえなかった。
工場は、沈黙していた。それは酷く耐え難い沈黙だった。
それでも、7時になればまたいつの様にバスが発車するかもしれない。
そして、発車した後にルシアーノのボールをつく音が聞こえてくるかもしれない。
そう思いたかった。そうであって欲しいと思った。
でも、7時を過ぎても工場は沈黙を守り、聞き慣れたボールの音も聞こえなかった。

俺は力なくボールをついた。
いつもなら、よほどの事でも聞かない限り地面に落とした事の無いボールは、
何度も何度も地面を虚しく転がった。
一日中煙の消える事がなかった工場が、煙を消した。
工場も、ルシアーノも消えたと思った……。
「くっ…」
俺は泣いた。体の底から悲しみが思いっきり突き上げてきた。
「ばっかやろー!!」
泣きながら、思いっきり相手のいないからっぽな空に向かってシュートを打った。
俺の放ったシュートは美しい弧を描いた。ルシアーノが打った様な美しいシュートだった。
空の色は憂いをおびた秋の色に変っていた。
俺は地面に伏して泣いた。泣いた……。


どれぐらい時が過ぎたのだろう。
「ミヤ」
背後から、懐かしい声が聞こえた。ルシアーノの声だ。俺は少しだけホッとした。
「ボールをだいじにつかわないと、ダメだね」
しかし、いつもとは何か違う雰囲気なのも感じる。俺は涙をぬぐうとルシアーノを睨みつけた。
「ミヤ、日本男児は泣かない…そう僕のおじいさんから聞いたことあるよ。
なのにどうしてミヤ、君はそんなに泣くの。」
会って半年しか経っていないのに、ルシアーノの言葉は驚くほど日本語が上達していた。
「お前が、い、いなくなるからと…思ってさぁ。」
俺は地面にあぐらをかくと、少し恥かしくなって笑った。でも、出てくる言葉はどうしても嗚咽交じりになってしまう。
駄目だ。何で、こんなに泣けてくるんだ。顔を隠すように涙を拭くと「泣かないで」と肩を叩かれた。

「ミヤ。ミヤは日本の中で一番の友達だ」
そう言うと、ルシアーノは煙の消えた工場を指した。
「日本が不景気なのは知っていたよ。この小さな工場も、今日でとうとうつぶれてしまった」
意外な程、ルシアーノは淡々としていた。
「潰れたなんて、そんな。おまえ、これからどうするんだよ」
これからどうする。
そう言った瞬間、俺はハッと顔をあげた。ルシアーノは俺の顔を見てゆっくりと肯いた。
「君が思っている事と同じ」
「じゃあ…」
「そう、僕はブラジルに帰るよ」
きっぱりとそう言うと、ルシアーノは微笑んだ。
「向こうで僕の家族を助けないといけない。貯金も結構できたし、出来たら学校に行きたいと思うし、サッカーもやりたい」
最後の「サッカーをやりたい」という言葉は、一際力強いものを感じた。
きっとルシアーノは、今までもこうやって出会いと別れを繰り返してきているのだろう。
本当はアイツの方がずっと寂しいのかもしれない。でも、出来るだけその気持ちを出さないようにしているはず。
そう思えたのは、ルシアーノの笑顔がたまらなく優しいからだ。
「おまえ…偉いよ、ほんと」
俺に面と向って褒められたのが恥ずかしいのか、ルシアーノは手をひらひらと振りながら「違うよ」と笑った。
「えらくないよ、ミヤ。ぜんぜん、えらくない。
むこうの子供はこれがあたりまえ。神様が決めたこと、僕はただ、流れるように生きているだけ」
「でも、偉いよ。俺がおまえの立場だったらこんなにも頑張れなかったかもしれない」
俺は立ち上がってルシアーノの肩を叩いた。
「それを言うなら僕も同じだね」
ルシアーノは俺に背を向けると、俺のボールを使ってリフティングを始めた。
「ミヤ…君とこうして出会えていなかったら」
ボールがルシアーノの膝の上で小さくはねる。そしてルシアーノの周りをモンシロチョウがひらひらと飛ぶ。
「僕はもっと早くブラジルに帰っていただろうなあ……」




まだバスの中から俺を見つめていた頃のルシアーノを想い出す。あの頃のあいつは、何処か寂しい目をしていた。
ルシアーノも俺と同じで、人には言えない孤独を感じていた。だからこそ、俺たちはこんなにも気持ちが通じたのだろう。
「君に出会えて…本当に良かったよ」
ルシアーノの最後の声は震えていた。
俺達は、進む方向が変っていく。でも、友情は変わらない。
「ミヤ」
「ああ」

初めてボールを交わした時の様に、俺たちは堅い握手を交わした。



後書き…この部分はもっと丁寧に書きたかったな。今度もう一度書き直してみようと思います。

ちなみに今日は「鮎飯」を作りました。塩焼きした鮎の身をほぐして、
それを炊き込みご飯にまぜる。
好みでみょうがや生姜、三つ葉を散らしてできあがり。
鮎の香がする御飯です。おいしかったw



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