カフェ番長

カフェ番長「カオポン」の、珈琲と喫茶店日記。 時には鞄を作ったり、ジャズを歌ったり。 手作りの暮らしを楽しんでます。

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掌編小噺 「工場と異人の夏」最終回



ルシアーノが明日ブラジルに帰るという日、俺達は最後のサッカーをやった。

季節は秋になったものの、まだまだ陽射しは強かった。
でもときおり吹いてくる秋風の涼しさに、俺たちは季節の移ろいを感じていた。
セイタカアワダチソウの黄色い花が揺れる空き地の真上を、アキアカネの群れが飛んでいる。
初めて二人でリフティングを楽しんだ春の朝を思い出しながら、まずはボールリフティング。
体中のありとあらゆる所を使ってボールを受け止める。
足の裏を使って空中でくるりと一回転ボールを回す「くるり」。
頭の上でボールをついて次第に細かくつきながら、最後はぴたりと頭の上で止める「オットセイ」。
ぽーんと高くボールをあげて、落下するボールを背中で受ける「バック・シャン」。
ルシアーノやその仲間達と、遊びの中で生み出していった互いの技を、一つ一つ確かめるように披露する。
トントントンとボールの弾む音が、乾いた空き地に響く。

吹き抜ける風の音が、俺たちの別れの序曲を奏でていた。
それは少しも感傷的ではなく、むしろ猛々しい気持ちにさせられる。
ボールを触れ。しなやかに、軽やかに。体の一部になるようにやわらかくボールを触れ。
やがて宙に浮いていたボールが地面につくと、それがキックオフの合図だった。
俺達は何も言わずに、どちらからともなくボールを奪いあう。1対1のミニゲーム。
1つのボールを争って、俺たちは互いの体を入れ、ぶつかりあう。ルシアーノの肩が俺の胸にあたる。
左腕でルシアーノの体を押すと、まず始めに俺のほうがボールを取った。
さあ、先攻だ。ルシアーノは瞬間に俺の動きを察知して、球を取りに体をいれてくる。
そうはなるものと、彼に教えてもらったフェイントを駆使して、俺はあいつを必死に抜こうとする。
ボールを素早く引いて、またいで、浮かして!
しかし、敵の壁は厚くルシアーノの鉄壁な守りを崩す事が出来なかい。
そのうち、とうとうルシアーノが俺からボールを奪った。
日焼けした素足が、神業の様な速さでボールを撫でていく。

早い、とてつもなく早い。
踊る様な独特のリズムで、俺をあっという間に抜いていくと、ハーフラインを越えたあたりからシュート体勢に入る。
打たせてなるものかと必死に追いついて、横から思い切り当たりをつけにいったものの、それも呆気なく交わされた。
そして瞬時にゴールコースを変えると、あいつは全く躊躇する事無くシュートした。

入る!
シュートした瞬間、そう強く予感した。
シュートされたボールはぐいーんと曲がり、工場の外壁に当たった。
息を止めた工場の外壁が、ルシアーノのシュートでバーンと撃たれたかの様に響く。
鳥肌が立つような美しいシュートだった。凄い。やっぱりルシアーノは凄い。
点を入れられたのは俺の方なのに、ルシアーノのあまりに見事な攻め方に、俺はしばし呆けたように立っていた。

「ミヤ、最後に君のシュート、見せて」
ルシアーノが壁から跳ね返ってきたボールを俺に渡した。今度は俺の番だ。
俺は黙って肯くと、ドリブルを始めた。
左足がボールの側面を捉える。この想い出がいつまでも忘れる事のない様に想いをこめて、俺はシュートを放った。
ルシアーノとの最後の試合はこれで終わった…。


「ミヤ、これから君はいろんな友達を作るといいよ。
君はこんな、素性の知れない僕とも仲良くできたしね。
学校でも、がんばって。君なら、できるよ」
ゲームの後ルシアーノは最後に俺にそう言うと、ミサンガを俺の足首に巻き付けてくれた。
「ミヤ、辛いときはこのミサンガ思い出して。僕がいつも君の事を想っている事を忘れないで」
俺と同じ年なのに、ぐっと大人びた表情をしている。
ルシアーノの言葉を大切にしていきたい。俺は強くそう思った。





そして2学期が始まった。
ルシアーノはブラジルに帰り、ルシアーノに託された想いを叶えてみようと思って、学校のサッカー部に入部した。
それは今までの自分なら、絶対にありえない事だった。
だけど、やってみれば何とかなるものだ。
朝も夕方も練習に参加して、最近は試合にも出してもらっている。この前の試合では、はじめて得点を決めたし、監督に褒めてもらった。
相変わらず一人でボールを触ってるのは変わりないけど、あまり気にはしていない。
教室の片隅やグランドで一人でボールつきをしていると、どこからともなく誰かがやってきて、俺の隣で黙ってボールをつきはじめてる。まるで、はじめてルシアーノと会った時みたいにだ。
別に無理して喋ろうとしなくても、気持ちは相手に伝わる。ルシアーノが教えてくれた事を思い出しながら、俺は今もボールを触っている。

ルシアーノ。お前、ボール蹴ってるか。
俺は今も乾いた空き地でボールを蹴っている。だから、お前もがんばれよ。



吹きぬける風は透明で、空は蒼く清んでいた。











FIN





(後書き)…これでお話はおしまいです。原稿用紙に換算すると約70枚くらいの量です。後半は、もう一度書き直しました。

拙い話を読んで下さって、本当にどうも有難う御座いました。







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