カフェ番長

カフェ番長「カオポン」の、珈琲と喫茶店日記。 時には鞄を作ったり、ジャズを歌ったり。 手作りの暮らしを楽しんでます。

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去年の暮れ…夜遅くまで知人とワインを飲み明かし、
べろべろに酔っ払って帰ったタクシーの中で、開いた携帯電話の画面には、
母からの不在着信が5通。

ho001.jpg

電話…何だったのかなぁ。
ひょっとして、「あれ」の事だろうか。
ふと嫌な想いがよぎるものの、
酔いで感情はすでに麻痺しており
そのあと、どうやって家についたのかさえも覚えていなかった。


翌朝。
ひどい二日酔いに襲われて、布団の中でくたばっていると電話がなった。
本当はとりたくなかったのだけど、家人が「母さんからだよ」と言うので
已む無くとった。
布団の中で海老の様に背を丸め、「もしもし…」と電話に応じると、
母さんは沈黙した。ひょっとして昨日、何度も電話をよこしたのに出なかったのを
怒っているのかと思って詫びようと口をあけた瞬間、
母さんは一言、「いっちゃった…」と呟いた。

いっちゃった。
逝っちゃった。
おばあが、おばあが。

あら、やっぱり。そうだったの、ふーん。
二日酔いも手伝って、酷く私は淡々としていた。
母さんもおかしなほど、淡々としていた。
ごめん、アタシ。今日はあんまり喋れない。そう詫びながら電話を切ろうとした瞬間、
頭の中に「おばあ」の顔が浮かんだ。

「あのさあ、母さん」
布団から顔を出して、私は話を続けた。
「こんな時期だからさ、飛行機の切符なんてとれないと思うけどさ、
一度旅行会社へ行ってみなよ」
沖縄行きの飛行機なんて、今からなんて絶対に無理だ。
それに訳あって親と離れてきた身だから、今更帰るなんてさ。
母さんは怒ったように言うと、また沈黙する。

おばあが危ないと聞かされてから、この2週間あまりこの話を
何度も何度も繰り返してきた。
その度に母さんは「いいから、絶対に何があってもいかないから」と
聞き分けのない子どもの様に意地を張った。

だけど、あの時の母さんは、何だろう…行っておいでと背中をおしてもらいたそうな感じがした。
「どんな訳があろうとさ、親だよ。母さん、行ってやりなよ。」
そう言って電話を切った。そして、酷い頭痛を忘れるためにひたすら眠った。



その夜遅く、また携帯電話が鳴った。母さんからだった。
「チケット…とれた」
まるで宝くじに当ったような呆けた声で、母さんは第一声そう伝えてくれた。
「うっ。よ、良かったじゃん」
まだ二日酔いは治らない。本当は「やったね!」といいたかったのだけど。
とにかく、行っておいで。私の代わりに手をあわせて頂戴。
短く話をして電話を切った。母さんは「はーい」と軽く答えた。



翌日、世間は大晦日。正月用に頼んでいた食材や御節を買いに走る。
空は穏やかに晴れている。車のとおりは少ない。

ho002.jpg


昼過ぎになって、ようやく二日酔いが治る。今回はかなり悪酔いした。
どうして、あんなに呑んだんだ?
1時間ちょっとでワインを2本と半分もあけていたのを思い出して
家人と二人で反省する。
いやなに、大掃除ではりきっちゃってさ、
そんでもって凄く疲れちゃってさ、ワインがおいしかったんだよ!
飲んでいる間、何度もカメラのシャッターをおしているのだけど
どれも酷くピントがぼけている。
まっ、その時は美味しく呑めたんだから、良しとしましょうや。
そう言って終わりにしようとすると、
家人はぼそりと「アナタも色々あったからねえ・・・」と言って笑った。
そして正月を待たずして、おせち料理に手をつける。
まるっと一日何も食べれなかった分、身に沁みるように美味しかった。



今年は色々あったねえ、介護というのを初めて体験した年でもあり
こうして暮れには、おばあの事を偲ぶ事になってしまってさ。
でも、大変だったけどさ、今年は今年で良い年だったと思うよ。
そんなことを話しながらお節の半分を食べ終えたあと、母さんへ電話をかけた。
もう今頃は、沖縄についているだろうな。
大丈夫かな、葬儀会場でしんみりとしているんじゃないだろうか。
それとも、自分の居場所がなくて片身の狭い想いをしているんじゃないだろうか。
母さんが電話に出てくるまで、緊張と不安で胸がいっぱいになる。
名古屋と沖縄の距離は以外にも近いのか、母さんはすぐに出た。

「もしもーし!!」

いつになく高い声で母さんは出た。
「母さん?!」
「はいよー」
まるで酒でも飲んだかのように陽気な声。
「聞こえるー?ねえー聞こえるー?」
母さんが一段と声をはりあげた瞬間、わあっと歓声が聞こえた。
「聞こえないって、母さん」
どうしたんだろう、とにかく母さんの声が元気そうで良かった。
そうホッとしていると電話の向こうから沖縄の民謡が聞こえてきた。
「あのねー、もう凄いよー。親戚も近所の人もみんな来てサー、
宴会みたいよー。もうみんな泡盛で出来上がっちゃってサー」
「はあ……」

20年前、“大きいおばあ”が亡くなった時のことを思い出す。
あの時も祭りのように大人たちが皆して、馬鹿騒ぎをしてた。
沖縄の人がみんな、こういう弔い方をするとは聞かないが
島ではこれが常識だった。
楽しいことも、哀しいことも、私の知っている沖縄の人たちは、皆歌い踊る。
この後、母さんの携帯電話は親戚中に回される破目になってしまった。
おばあの弟、母さんの妹、その子供達。
今まで母さんが意識して距離をとってきた人たちが、皆電話に出て、私と話したがる。

おばあは幸せサー、ばらばらになっていた兄弟や親戚がみんな集まったサー、
きっと近くでこの様子を見て喜んでいるサー。
哀しいけれど、こんなに幸せなことはないサー。

興奮したように、みんなそう言う。
そして最後には笑っているのか泣いているのか
わからないうちに、他の人が「もしもーし」と話をはじめる。

母さん、家に帰れてよかったね。本当に良かったね。

気がつくと、私の顔は涙でぐしょぐしょに濡れていた。
哀しいけれど、凄く凄く・・・ほっとしたのだ。

電話を切ると、私は蕎麦を湯がいた。薬味にねぎを刻んで、ざるに盛って出した。
「おつかれさん」
「うん」
二人して笑って、蕎麦をすすった。
蕎麦は凄く美味しかった。




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| 平凡だけど幸せな日 | 18:07 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

思わずほろり
泣けちゃった~っ

えっと、でもこの涙は悲しい涙じゃぁないんだよ( ノω-、)

| うづまきなると | 2009/01/08 20:22 | URL | ≫ EDIT

どうもありがとうです~(涙


うづさん、どうもありがとうございます。
なんかね、おばあがいなくなってしまったのはとっても寂しいのだけど、
それでも気持ちが温かいのです。
沖縄からかえってきた母さんと先日あった時、
母さんが「行ってよかったー!」と凄くすっきりとした表情だったので
またホッと。

今度はカオポンが沖縄へ、おばあに会いに行こうと思いますよ。

| カオポン | 2009/01/08 23:08 | URL |















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