カフェ番長

カフェ番長「カオポン」の、珈琲と喫茶店日記。 時には鞄を作ったり、ジャズを歌ったり。 手作りの暮らしを楽しんでます。

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

| スポンサー広告 | --:-- | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

ジャズ小噺 「明るい表通りで」





きこえる、きこえる。ほら、あの人の足音が。

少し硬めの靴、あれはたぶん皮靴だ。それもとても仕立ての良い。

随分久しぶりに聴いたような気がするけど、何だか今までと違って聞こえるのは何故かな。



-----おい、オマエ。そこで止まるなよ。列が乱れるぞ。

すみません、隊長殿。だってあの人の足音ですよ。

-----ちっ、わかってらい。俺だって知ってるよ。

でしょう、隊長殿。これはひょっとして、ひょっとすると今夜あたり…。

------違うな。おめえは全然わかってねえ。

わかってないって、どういうことですか?

------あのな。よく聴け。もう一つ違う音が混ざっている。

違う音?

----そうよ。その触覚でもう一度感じるんだ。あのやわらかな足音。あれは…。

ひょっとして、女の子と言う生き物ですか?

-----かもな。俺としては何の興味も無いけどよ。まっ、今までのアイツらとは違うって事だ。

へえ…そうなんだ。



半日かけて下った道。まだ僕の仕事は終わっていない。

僕の役目は、女王様が産みなさったお子様のためにせっせと食事を運ぶこと。

昨日の昼に仲間総出で戦をして、やっと勝ち得た物を納めているのだ。

時には地上で蜂やアブ達を相手に戦って、数え切れないくらいの犠牲を出して、それでも僕達は食事を運ぶ。



僕が「あの人」の足音にはじめて気づいたのは、随分前のこと。まだ僕は働き出したばかりのひよっこで、

毎日どれだけ頑張っても、一つも餌を運び出せない全くの素人だった。

みんなに沢山迷惑ばかりかけて、情けなくて、毎日泣いてばかりだった。

生きていく事に意味があるのだろうか、なんて考えていたのもこの頃。

そう言えば隊長は、「そんなことを考える事すら無駄だ」って言って笑っていた。

今では優しい隊長も、あの頃は随分ぐれていた。

なんでも、突然遠い国から船便に混じって渡ってきたらしくて、隊長の姿は僕達のとは随分体つきも違って、

喋り方も変な訛りがあった。

ただ物凄く体がでかくて、テントウムシやカメムシ相手に一人で戦える力もあったから、

すぐに僕が所属する部隊のリーダーになった。

でも、気に入らない事があるとすぐに僕を殴っていたし、仲間ともよく喧嘩をしてた。

そんな僕と隊長が、一緒に地下へ戻ろうとしていた時だった。

日が沈んだばかりの地上から、ずんと腹に響く音が聞こえてきたのだ。



ずん。

どぅーん。

どぅー。

どぅっ、どぅっ、どぅっ。



ずん。

どぅーん。

どぅー。

どぅっ、どぅっ、どぅっ。



少し変わった間を取りながら、ぶーんと重い音が地下に響く。

それは地上で耳にした、ありとあらゆる生き物の音とは随分違う。

この重たいリズムの音が繰り返されること8回。僕と隊長は互いの触覚をリズムに合わせて揺らしてみる。

するとこれが結構気持ちが良い。

この後、このリズムは保たれたまま、後から後から色んな音が混ざっては消え、混ざっては消えた。

犬の遠吠えにも良く似た音、鳥のさえずりより、もっと魅力的な声で鳴いているように聞こえる音。

何て、気持ち良いんだ。

それまでもやもやしていた気持ちがふっと抜けていく。

気がつくと、僕と隊長はその音が鳴り止むまでずっと体を揺さぶっていた。

そして僕のまわりにいた仲間達も、気持ち良さそうに揺れていた。

後から教えてもらったのは、この音が「ジャズ」と呼ばれているってこと。

隊長が昔いた場所では、しょっちゅうこんな音があちこちで流れていたらしい。

人間が時々、音を作って楽しむことがあって、それを「音楽」と言うことも教えてもらった。

音楽は良い。それもこの「ジャズ」と言う音楽は。

いつしか僕達は、このジャズの音を流してくれる人たちのことを「あの人」と呼んで慕う様になった。


……「あの人」たちの足音は次第に小さくなり、やがて音楽が聞こえてきた。

隊長曰く、「レコード盤」という黒いものから、その音が生まれる。

地下にもぐる前に見た、明るい初夏の空。いつも耳にするのとは違い、底抜けに明るくて優しい音。

今日はなんだか、優しい音ですね。「女の子」がいると、あの人たちはいつになく音がやわらかくなります。

そう言うと、隊長は「ああ」と言って頷いた。

------たぶんな、こどもがそこにいるんだよ。だから、こんな音が聞こえてくる。

こども…ですか。僕は驚いて隊長の顔を覗く。隊長は片目だけをあけて、にやりと笑う。

------どんなつれえ(辛い)事があっても明るく逞しく生きて欲しいんだよ。どんなことがあってもさ。

顔をあげて明るい表通りを歩いて欲しいって願うんだ。親になったら、みんなそう思うだろう?



乾いたアスファルトの道。埃が舞う朽ち果てたビル。

仕事もなけりゃ、金も無い。生まれる時に親からもらった血と肌の色。

世間がどう辛くあたろうと、それが私の生きる道。

だから明るく生きてやろうよ。くよくよしないで、笑ってやろうよ。

昔いた土地で聴いたその曲は、酒場や裏通りだけでなく、母親が赤ん坊をあやす時にもよく口ずさんでいた。

赤ちゃんですか、いいですねえ。そうだ、女王様のお子様にもこの曲を聴かせてあげたら。

-----バカを言え。地上に連れ出すことができぬことぐらいオマエもわかっているだろう。

そうですけど…。隊長が歌ってさしあげたらどうですか?

-----無理だ。どうしてもやりたいなら、オマエが歌え。



そう言うと、隊長は吸っていた桜の葉巻を僕に預けた。そして大きな背中を揺らしながら地下へ潜っていく。

僕はアリ。

きっとこれからも、こんなふうに、死ぬまでずっと女王様のために食事を調達して運び続けるだろう。

それがどういうことなのか、何故なのかとは、もう自分に問う事は無い。だって、僕はアリなのだから。

暗闇の道をただひたすら、進んでいく。この道が僕にとっては、明るい表通りだと思う。

----じゃあいつか、女王様にお目通りの許可を頂けるよう、手配をお願いしますよーー!



ずっと先を行く隊長の背中に向かって、僕は大きな声で叫んだ。

fin



拍手コメントありがとうございました!
フルートさん、また今度飲みましょうね?。


konoriさん、どうもありがとうございます。教えていただいたブログ
拝見させてもらってますよ?
スポンサーサイト

| オリジナル小説 | 10:59 | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。