カフェ番長

カフェ番長「カオポン」の、珈琲と喫茶店日記。 時には鞄を作ったり、ジャズを歌ったり。 手作りの暮らしを楽しんでます。

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小噺 「王子と王女」

授業終了の挨拶をそこそこに済ませると、僕は誰よりも早く教室を抜けた。
急いでいた理由は、一通の手紙。
まるで僕の目に触れるのを恐れているかのように、その手紙は僕が使う机の奥底にしまわれていた。
見つけたのは何気ない偶然。
返されてきたテスト用紙を成績も見ずに机の中に放り込もうとした時、何かが当たった。探るようにそれをつかむと、僕はその手紙をそっと開いた。
手紙の中の文面は、こうだった。

『私は今、魔王の手によって眠らされています。どうぞアナタのキスで私を眠りから覚ましてください』

差出人は、僕が密かに想いをよせていた隣のクラスの女の子。
可愛いけれど、根はどうみても体育会系な、さばけた感じの子だ。
だから文面と彼女の雰囲気があまりにもかけ離れていて、僕は彼女からの手紙だとはとても信じられなかった。
だけど、これが本当なのか、単に僕を笑いものにしたいのか、それを確かめる必要は大いにある。
どうしようもないほど強く、僕は真実を確かめたくなったのだ…。


屋上につながる階段を二段ずつ飛ばして駆け上がりながら、僕は最近夢中になって進めているロールプレイングゲームの事を想い出した。
昨日の夜、ゲームの中で僕は、まさにこんなシナリオを迎えていたのだ。

物語の始めは、夢の中に出てきた美しい少女の言葉だった。
それも、今あけてしまった手紙の言葉と全く一緒の!
少女は長い間、魔王が住まう屋敷に閉じ込められ、脱出を試みた瞬間に魔王の呪いで眠らされてしまったのだ。
僕は彼女を救い出そうと仲間を募って旅に出る。
ゲームの中の僕は鋼の騎士。
どんな戦場でもたくましく走り抜ける白馬と、情報屋のネズミと賢いフクロウが友達。
彼女のいる所までたどり着く道のりは険しく、僕は1つのタンジョンを潜り抜けるたびに、猛烈な寝不足に見舞われた。
そして何回か苦しい戦闘を繰り返した後、ようやく僕は彼女が眠らされている部屋の扉の前に辿りついたのだ。
しかし、僕のゲームはそこから進む事はできなかった。
ゲームを起動させていた小さな機体は突然沈黙した。まるで、その先を見せたくないというかのように、ゲーム機は壊れてしまったのだ。

本当にあの手紙を書いたのは彼女なんだろうか。
上りきった階段の上で、僕はとても気弱な気持ちになっていた。
ゲームの中の僕は白馬に跨る王子だったけど、実際は灯りを消した部屋の中でいつまでもコントローラーを握っている様な、非常に平凡な男だ。
今だってそうだ。灰色のコンクリート壁に映りこむ僕の姿はあまりにも頼りない。
何分かその場で立ち止まった後、僕は屋上の扉に手をかけた。
鉛色のドアノブを左に回すと、あっけないほど簡単に扉は開く。
「きい」と軋みながら、徐々に扉は僕を向こうの世界に誘っていく。
屋上は地上に比べると随分風が強い。見えない僕のマントは、はたはたと風にたなびいている。

屋上に足を踏み入れると、僕は彼女の姿を探した。
貯水タンクのモーター音が低い音で唸っている。その傍に誰かが横たわっているのが見えた。
花も無く、白いシーツも無い。
ただ無機質なコンクリートの上に、手を胸の上で組んだ姿で眠っている少女に向って、僕はゆっくりと近づいていく。



…物語はそこからはじまるのだ。





FIN



(後書き…ちょっとファンタジーな話を書いてみたね。)
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| オリジナル小説 | 14:19 | comments:2 | trackbacks:0 | TOP↑

COMMENT

カオポンさん今晩は!!
ドキドキマウス握り締めながら読ませていただきました!!
何だかいつもと違うテイストのお話に私はドンドン引き込まれて、まるでその場所に居るかのような感覚になりました。

その後どうなったのかが凄く気になりますが、
やはりそれは私の想像にお任せという感じでしょうか?

上質のお話有難うございましたvvv

| 北瀬智 | 2005/10/18 22:12 | URL |

智さん、こんにちは~。
わああ、どうも感想ありがとうございます!

自分の学校は屋上に出ることを許されなかったけれど、いけるものなら行ってみたい場所でした。
扉をあけると、何かがある。
もしも扉をあけたら、自分の好みの男性が寝ていたら、智さんはどうします?
自分は少なくともとにかく様子を見ます。
そして少し非日常的なめぐり合いに、ドキドキしますね。

この話の「僕」は、彼女にどんな行動をとるんでしょうかねえ。

どうも読んでくださいましてありがとうございました!

| カオポン | 2005/10/19 09:15 | URL |















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